小野家御妻女の告白
- 物販商品(自宅から発送)支払いから発送までの日数:5日以内残り1点¥ 1,200
おんな城主直虎 二次創作・平成二十九年~pixiv掲載作品をまとめた短編集。政次×なつ中心。成人向け表現がございます。 A5版・64頁・表紙セパレーション加工。本文クリームキンマリ。 政なつ愛を込めた一冊です。
【秘めたる想い】 「まあ、お起きになられては、なりませぬよ」 少し、ふらつく体で部屋を出た。昨夜、遅くに戻り、そのまま床に入ったが、眠れた気がしない。もう邸に出仕の刻限は過ぎているだろう。 「……なつ」 薄青の小袖の義妹、なつが、驚いた顔をして駆け寄って来た。 やんわりと戻されて、再び熱の籠もる床へ帰った。 「お熱がございます。今暫くのご辛抱を……」 【揺らぐ】 「お帰りなさいませ、伯父上」 邸に戻ると、明るい声が耳に届く。少し早足で迎えた少年は、待ちかねた様に寄って来た。 「これ。静かにしなさい」 後ろから、なつが少し困り顔で。しかし心の底から怒っている風では無く。 「今、戻った」 なつは静かに頷くと、侍女に用意させた桶の水で政次の足を洗い清めた。 「お疲れでございましょう。すぐに湯を」 今日は早くに出、近隣の農村を巡りその後、井伊館で書類に目を通し、直虎に決済を仰いだ。まだ慣れぬ女当主は、 「ここはどうするのじゃ」 「村の蔵を新しく建てたいと言う願いが来ておる。今のものより大きくしたいと」 村の者らの細かな事に深入りしすぎ、てんてこ舞いになる。己が処理すれば楽とも思うが、それは殿の為にならぬ――。 『――殿は、皆の竜宮小僧であろうとし過ぎるのだ』 疲労した頭の隅を占める緋色の尼君。幼き頃から、誰より近くで見てきた筈のひと。 随分と遠くなってしまったものよ、と漏れる息。 【蒼い月を想う頃】 ゆっくりと長い廊下を進むと、庇の先に細い月が覗いていた。 「旦那様は遅くなられると、井伊のお邸から先程、使いの方が」 「そう、ですか」 ここ数日、義兄上のお帰りが遅い。 国力の弱い井伊が侮られぬ様、商いで富ませるのが一番と、綿を育て、木を商った。他方からも一目置かれる様になったのだ、と奥山の兄は嬉しそうに言った。それらにかかる苦労より、ご領主である直虎様が認められたという事が、大きな喜びになっている。戦で失った多くを取り戻し良い方向に向かっているのだと心に言い聞かせる。 【伯父上と一緒】 秋の風が感じられる頃になった。小野の邸に戻ると、草むらに虫の音。 「お戻りなされませ」 玄関に出たのは、侍女であった。 「なつ様は、若様のご看病に……」 「亥之助が、何か?」 廊下が嫌に長く感じる。暗さのせいだろうか。 今朝方、朝餉の折には顔を合わせたが、いつもと変わらなかった。 奥の間には、なつが息子の傍に付いていた。そっと襖を引くと肩がひくり、と震えて不安を湛えた目が向けられた。 「義兄上様……」 「具合が悪いと……どうなのだ」